賃料改定
新規賃料と継続賃料
- 土地の賃貸借にかかる賃料が地代
- 建物の賃貸借にかかる賃料が家賃
これらに共通して、賃料には、以下の2種類の賃料があります。
新規賃料 | 新たに賃貸人(オーナー・地主)と賃借人(テナント・借地人)が賃貸借契約を締結する場合の賃料 |
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継続賃料 | 既に賃貸借契約を締結している当事者が、賃料を改定する場合の賃料 |
その理由は以下のとおりです。
継続賃料には「相場」がない
新規賃料の場合
テナントが新規入居物件を探す場合は、数多の物件から条件に合う物件を選択することができます。
オーナーも、複数のテナント候補から、最も条件の良いテナントに入ってもらうことができます。
つまり、新規賃料は需要と供給の市場原理が働いて「相場」が形成されます。
継続賃料の場合
既に入居しているテナントにとって、オーナーから賃料増額要求を受けた場合、またオーナーが賃料減額要請に応じてくれない場合、「ではこの物件はやめて他の物件にしよう」と簡単に退去するわけにはいきません。
入居物件は生活や商売の起点となっており、移転するには様々なマイナス影響や費用が予想されるからです。
オーナー側も、テナントから賃料減額要請を受けた場合、テナントが賃料増額要求に応じてくれない場合、「では、出ていってよいです。他のテナントに借りてもらいます」というわけにはいきません。
そもそも借地借家法により、正当事由がない場合は、賃貸人から賃貸借を終了できないからです。
また、仮に退去となっても、次のテナントがすぐに見つかるとも限りません。
上記は借家の場合ですが、借地の場合も基本的には同様です。
従って、継続賃料の評価は、一般市場とは異なる特定の当事者間でのみ妥当な賃料水準を求めるものであり、「相場」がありません。
実際の継続賃料の決まり方
借家の場合
過去に10,000円/坪の家賃で契約していた建物について、現在の家賃相場が15,000円/坪になっていたとします。
この場合、継続賃料が一気に相場の15,000円/坪に増額されることはなく、10,000円/坪と15,000円/坪の間で決まります。
賃貸借契約は長期的な関係であり、過去に合意された10,000円/坪という水準を無視することはできません。
逆に、相場が下がった場合にも、一気に相場賃料まで減額されることは非常に希で、現行賃料と相場賃料の間のどこかに落ち着くことが一般的です。
借地の場合
借地の場合は、借家よりも契約期間が長期に渡ることが一般的です。
当初の契約から、年月が経つほど、また経済情勢が変化するほど、新規賃料との乖離が進行する傾向があります。
特に、「戦後間もないころに設定された借地権」や、「バブル期に設定された借地権」は、現在の新規賃料水準とは相当の乖離が発生しています。
継続賃料改訂の手続き
まず①当事者間の話し合い、それが不調の場合は②「調停」、さらには③「裁判」で決められます。
特に、借地の賃料改定の場合は、「調停前置主義」といって、「裁判」を行なう前に、「調停」を経ることになります。
しかし、相場がないのが継続賃料です。
①当事者間の話し合い
両者がそれぞれ自分の主張を繰り返すだけの水掛け論になることも多々あります。
②調停
調停は、裁判所(調停委員会)が仲介して、当事者の合意を成立させるための手続きです。
そして、調停委員として一定の専門家が介在します。
しかし、調停は、どちらの当事者の言い分が正しいかを決めるものではないので、不調となることも多々あります。
③裁判
原告・被告の弁護士を経て、不動産鑑定士の鑑定評価書が提出されることもあります。
それでも決まらない場合は、裁判所から不動産鑑定士の鑑定評価が求められることになります。
★なお、裁判所で決められる賃料は、原告・被告の主張の範囲内で決められることが原則となっています。
従って、裁判所からの不動産鑑定評価書が出される「前」に、合理的な根拠のある賃料の主張を行なうことが非常に重要となります。
(裁判所の鑑定評価書が出た後では、それに不満があっても覆すことは相当ハードルが高くなります)
継続賃料の求め方
不動産鑑定では、以下のような手法を用いて、より説得力の高い結論を導きます。
差額配分法 | 適正な新規賃料水準を求め、現行賃料との差額について、その差額発生の経緯などを分析することで配分する方法 |
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利回り法 |
純賃料という概念に着目した手法。 現行賃料決定時の純賃料と価格の比率などを勘案して査定される「継続賃料利回り」を乗じて、現在の純賃料を求める手法 |
スライド法 |
純賃料という概念に着目した手法。 現行賃料の純賃料に、経済情勢等の変化に即応した変動率を乗じて、現在の純賃料を求める手法 |
賃貸事例比較法 | 類似の継続賃料の事例との比較により継続賃料を求める手法 |
~継続賃料があるのは日本だけ?~
日本のように継続賃料が問題になるのは、世界基準ではとても珍しいといえます。
それは、日本の借地借家法が、賃借人保護のために賃借人の更新権を認めている(賃貸人の更新拒絶を制限している)ことが要因です。
多くの国では賃貸借契約は期間満了と同時に終了し、テナントは別の物件を探すか、その時点の相場賃料で再入居するか選択することになります。
この点は、海外の方にとって日本の不動産マーケットが分かりにくいと言われる要因の一つとなっています。